悲しみ顔で月面着陸「ファーストマン」

人類史上初めての月面着陸を果たした宇宙飛行士、ニール・アームストロングさんの話だ。僕の好きな「アポロ13(1995年)」と違い、この映画では宇宙旅行が全く華やかに描かれない。

宇宙飛行士という職業が、精神的にも肉体的にもいかに過酷だったかという点にフォーカスされている。口数の少ない、魅力的とはお世辞にも言い難い主人公を、悲しげな顔の得意な(得意かどうかは知らないが…)ライアン・ゴズリングが好演している。

多くのシーンで一人称視点(飛行士の目線)が採用されていて、観客は宇宙飛行を文字通りリアルに体験する。これが結構辛かった。ロケットで打ち上げられるシーンなんて、感動どころの話ではない。

小さな金属の箱に押し込められ、シートに拘束された状態で轟音とともに激しくシェイクされるのである。暗い、狭い、うるさい。それに加えて、超スピードでとんでもなく高いところに放り出されるのだから(何を隠そう僕は高所恐怖症だ)、あまりのしんどさに途中で席を立ちそうになった。

おまけに、当時の宇宙計画では、同僚が事故で亡くなるなんてしょっちゅう。自分のミッションがうまく行かなければ厳しく責任を問われる。そのブラックさに「なんでそこまでやらなあかんのか」と、いたたまれない気持ちになった。当時の宇宙飛行士の人達はほんとに尊敬に値する。

パイロットにこんな過酷な負担を強いたうえ、ときには人命を犠牲にしてまで月面着陸を実現させないといけなかった理由は何だったのかというと、それは「ソ連に勝つ」という政治的な大義のためだった。個人の夢の実現とはかけ離れた事情やんね。その辺の皮肉も描かれていて、宇宙計画に疑問を呈し始めた社会における飛行士の微妙な立ち位置も、見ていて辛かった。

あらゆる苦しみの末に月面に降り立ったアームストロングを見たとき(いや、ゴズリングの哀しげな眼差し…)、単なる感動や同情とも違う、なんとも言えない気持ちになった。

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